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談 no.123

システムチェンジ…アソシエーション、グローバル・タックス、ジャスティス

談 no.123

文化、芸術、思想、科学などについて各界気鋭の論壇を招き、深く掘り下げるワンテーマ誌。

著者 柄谷 行人
上村 雄彦
明日香 壽川
公益財団法人 たばこ総合研究センター
シリーズ
出版年月日 2022/03/01
ISBN 9784880655239
判型・ページ数 B5並製・90ページ
定価 880円(本体800円+税)
在庫 在庫あり
 

内容説明

特集 システムチェンジ…アソシエーション、グローバル・タックス、ジャスティス」

「資本=ネーション=国家」への抵抗運動は、3・11を経てコロナ禍に直面し、より現実的なものとなってきたと柄谷行人氏は言う。生産・流通・金融などの現在の諸システムの問題点が浮き彫りになったためであろう。多くの人が生産の意味、消費の意味、地域の意味、ネットワークの意味、働くことの意味、そしてなによりも生きることの意味に気づいたのだ。「ニューノーマル2・0の世界」の最終回は、ポスト資本主義における人類と社会の未来を構想する。

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目次

「可能性としてのアソシエーション、交換様式論の射程」
柄谷行人

台湾のオードリー・タンIT担当相をはじめ世界の文化人がその影響力を認め、再び注目を集めている柄谷行人氏であるが、その中心となる著作『世界史の構造』で、「交換様式」という観点から歴史、社会を分析している。これまで社会構成体の一般的な解釈は、主に生産様式を起点にしていた。しかし、生産様式を起点にしてはうまく説明できないとして、交換様式から出発すべきだと提案したのである。もし交換が定義上経済的な概念であるならば、すべての交換様式は経済的なものであると見なすことができるからだというだ。交換様式とは何か。A=互酬交換(「共同体」、平等で不自由)、B=略取と再分配(「国家」、不平等で不自由)、C=商品交換(「資本」、不平等で自由)、そしてAを高次元で回復したDの四つがあると柄谷氏は説く。そして、それぞれが同時に存在しながらも、どの交換様式が支配的かによって社会の性格が決定されるというのである。
大澤真幸氏は柄谷氏の交換様式論をパラフレーズして、次のように解釈する。近代社会の構造を形成する三つの実態、すなわち、ネーションと国家と資本は、それぞれ交換様式A、B、Cに対応する。これら三つの実体は互いに依存し合っており、どの一つも、他の二つなしには存在し得ない。社会構成体は単独では存在しているわけではなく、常に他の社会構成体との関係において、つまり、「世界システム」において存在している。社会構成体の歴史は、それゆえ、世界システムの歴史であり、四つの段階にわけられるという。第一に、交換様式Aによって形成されるミニ世界システム。第二にBによって形成される世界=帝国。第三に、Cによって形成される世界=経済。とくに、近代の世界=経済は、「近代世界システム」と呼ばれる。そして最後にDによって形成される世界システムがあり得るわけで、それはまさにカントの言った「世界共和国」だというのである。
昨今にわかに関心を集めているアソシエーション運動は「自由かつ平等な社会を実現するための運動」で、「世界共和国」の実現ではないかと思われる。柄谷氏は2000年にNAM(New Associationist Movement)を提唱し自らアソシエーション運動を実践していた(約2年半で解散)。
そこで、今改めてアソシエーション運動の意味と意義を掘り起こし、さらには、いまだ謎の多い交換様式D(世界共和国だとか世界宗教だとか共産主義だとか現在もさまざまに議論されいる)を解読しながら、ニューノーマル2・0の世界におけるアソシエーション運動の可能性を考察したい。

「グローバル・タックスの実現で世界政府の設立へ」
上村雄彦

資本主義のみならず主権国家体制も合わせて超克すべきと説くのは上村雄彦氏だ。途上国でSDGsを達成するためには年間400兆円が必要であるのに対して、世界の政府開発援助の総額は20兆円にも満たない。他方、タックス・ヘイブンに秘匿されている資金は、5000兆円と見積もられている。これだけの資金をSDGsの達成に投入できれば、少なくとも資金面では、SDGsの達成は可能だ。クローバルに拡大した危機を深める資本主義は、主として多国籍業と金融資本によって推し進められている。グローバルに拡大した資本主義の圧力を弱め、国境を超えて地球規模課題を解決するための国境を越えた政策を打ち立てなければならない。すでに一部で始まっているグローバル・タックスを推し進め、世界政府設立の実現に向けてステップアップする時期がきたのである。とりわけグローバル・タックスは資金創出、グローバルな負の活動の抑制のみならず、現在のグローバル・ガバナンスを変革する潜在性をもっていることから、その意義は限りなく大きいといえる。

「グリーン・リカバリー:コロナ禍の社会政治学」
明日香壽川

コロナ禍からの早急な回復を願っているなかで、少なからぬ人が、ただ単に昔に戻るのではなく、昔より良い社会をつくろうと考えている。その一つがグリーン・リカバリーだ。緑の復興と訳されるグリーン・リカバリーは、新型コロナウイルスの感染拡大がもたらした経済停滞からの復興を、気候変動対策と共に進めるというような意味合いで使われているという。グリーン・リカバリーには、重要なキーワードがある。それは、ジャスティス(正義)だ。気候変動の文脈でジャスティスは、主に、①一人当たりの温室効果ガス排出量が小さい途上国の人々が、一人当たりの温室効果ガス排出量が大きい先進国の人々よりも、気候変動によってより大きな被害を受ける、②先進国のなかでも貧困層、先住民、有色人種、女性、子どもが現実としてより大きな被害を受ける、③今の政治に関わることができない未来世代がより大きな被害を受ける、の三つの意味で使われる(どれも定量的な事実である)。この三つの状況がアンジャスティス(不正義)であり、このような状況を変えることをジャスティスの実現とする。ジャスティスの実現は、だから個人の努力だけでは不可能であり、今の社会システムの変革が必要だというのだ。ジャスティスの確立あるいは社会システムの変革。それはいかにして可能か。

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