談 no.113
感情生成 生の始まり
文化、芸術、思想、科学などについて各界気鋭の論壇を招き、深く掘り下げるワンテーマ誌。
著者 | 公益財団法人 たばこ総合研究センター 編著 板倉 昭二 著 渡辺 正峰 著 信原 幸弘 著 |
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シリーズ | 談 |
出版年月日 | 2018/11/01 |
ISBN | 9784880654553 |
判型・ページ数 | B5並製・82ページ |
定価 | 880円(本体800円+税) |
在庫 | 在庫あり |
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内容説明
特集 感情生成…生の始まり
感情には、一つの特殊な性質があり、この性質によって気分や知覚から区別される。すなわち、感情を惹き起こす原因となるものがなんであるとしても、感情がこころに生じるためには、感情の原因となる事柄が「私」のありかたとの関連においてその都度あらかじめ把握されていなければならないからだ。哲学者の清水真木氏によれば、ここが感情を知覚や気分から区別する重要な要点で、感情とは、「私とは何か」を教えてくれるものであり、「私とは何者か」という問いに対する答えは、感情として与えられるというところに大きな特徴があるというのである。感情それ自体が両義性の賜物だというわけだ。
発達心理学者ヴィゴツキーは、知的発達のダイナミズムを最近接領域と捉えた。今まさに成熟しつつある機能のことであり、未完了の発達水準を示している。感情とは何か。それは、「私」という存在の最近接領域であり、「生」が始まる場のことである。感情を感情その自体として把握すること。感情生成論の誕生だ。
目次
感情の誕生…赤ちゃんはいつから感情をもつようになるのか
板倉昭二(京都大学大学院文学研究科教授、専門は発達科学)
近年の赤ちゃん学は、赤ちゃんの知られざる能力をさまざまな方法で明らかにしてきた。赤ちゃんは、物理的法則に基づいた知識をもっており、物理的な推論を行うこともわかってきた。また、ヒトが発する信号に対して高い感受性をもっていることもわかってきた。赤ちゃんは、最初の誕生日を迎えるまでには、他者の感情情報を読み取り、自分の行動を調整できるようになるという。また、基本的な良いおこない悪いおこないもなんとなくはわかっていると考えられている。さらには、他者が適切に反応してくれる社会的パートナーかどうかも検知しており、他者と注意を共有しようとする能力もみられるという。
では、赤ちゃんはどのように感情を表出するのだろうか。また、どのように感情を理解するのだろうか。赤ちゃんの感情生成について、赤ちゃん学の最新理論を踏まえ考察する。
・〈脳と感情〉
感情はどこにあるのか…二つの脳から考える
渡辺正峰(東京大学大学院工学系研究科准教授、ドイツのマックス・ブランク研究所客員研究員。専門は、脳科学)
生物の脳には何らかの自然則によって意識が生じているらしい。では機械に意識はあるのだろうか。それを身をもって検証しようというのが渡辺正峰氏だ。分離脳という考え方がある。右脳と左脳が切断された時、二つの意識が生じているという。この知見から、われわれの意識は、普段は右脳と左脳の統合によって生み出されているというのだ。このことから、次のような実験の可能性が考えられる。左右の脳を外科的に分離し、片方はそのままに、もう片方を電算機に接続する。その時、電算機=機械の脳の見ている世界が見えるはずで、それはまさに機械の意識を認知したことになるのではないかと。また同様に、それは人間の脳では意識はどのように立ち上がるのかを明らかにもしてくれるだろう。
分離脳というアイデアが提供する意識の世界、そしてその先にある感情の世界に、脳科学はどのような知見を得ることができるだろうか。
・〈感情の哲学〉
感情と情動…自己が自己を物語る時
信原幸弘(東京大学大学院総合文化研究科教授。専門は科学哲学、心の哲学)
『情動の哲学入門』で、あえて「感情」を使わず「情動」という言葉を使うのは、情動という言葉には、無数の名もなき情動たちが含まれているからだと著者・信原幸宏氏は言う。世界の価値的なあり方を身体的に感じ取る心の状態をすべて包摂するために、意識的に心に感じる状態だけを意味する「感情」では十分に言い表せないというのだ。
自己物語、すなわち自分で語る自分の人生の物語について、情動はそれに欠かせない重要な役割を担っている。われわれは情動の力で自己物語を紡ぎ出しながら、その物語を生きていく。われわれは、自分の情動能力の範囲内で可能な自己物語を生きるしかない。たとえそれがフィクション化を伴うとしても、それがわれわれにとって実際に紡ぎだすことのできる最も有意味な物語であり、その物語を生きることがわれわれにとって実際に営むことができる最も豊かな生なのだと信原氏はいう。
自己が自己を物語る生きる場としての自己について、それと深くかかわる情動(感情)との関連から考察する。