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江戸人の教養

生きた、見た、書いた。

江戸人の教養
著者 塩村 耕
ジャンル 歴史・風俗
出版年月日 2020/07/22
ISBN 9784880654843
判型・ページ数 A5並製・232ページ
定価 2,200円(本体2,000円+税)
在庫 在庫あり
 

内容説明

書物とは、時空を超えて何かを伝える道具だ。とりわけ時を超える機能が重要で、そのおかげで人は死者の声を聞くことができ、さればこそ人類の文明は発展してきた。ありがたいことに、日本は大量の古典籍(ここでは明治維新以前に作られた書物をいう)を保有する古書大国だ。その大部分は江戸時代に作られたもので、二百年以上続いた平和で文化的な時代と、高い識字率のおかげで、世界に誇るべき多彩な文化遺産の山が残された。

それだけではない。古人の筆蹟(ひつせき)を珍重する日本人特有の美徳は、膨大な肉筆資料をも保存させた。特に第三者の目を意識しない書簡は重要で、より直接に古人の人間性に迫る重要な資料となっている。ところが、せっかくの宝物が十分に活用されていない。最大の理由は、書物や文書(もんじよ)の多くが、くずし字で書かれていることだろうが、どのような資料が存在するのか、簡単には情報を把握しにくい点も、その一因となっている。

私はこの十七年間、日本有数の古書の宝庫、西尾市岩瀬文庫の全調査と書誌データベースの作成に打ち込んできた。詳細な書誌、つまり書物の形態や内容、成立や伝来などについての情報を共有することが、古典籍の活用と保存につながると信じているからだ。嬉うれしいことに、記述的な書誌データベースは、各地で徐々に増えつつある。また、この数年、古典籍の画像データベースが急速に進展し、国会図書館や国文学研究資料館をはじめとする図書館から、古書の精細な画像がネット上で公開されている。早稲田大学図書館が提供してくれる書簡資料群の画像は、驚異的な豊かさだ。

これらを契機として、古書や古文書の世界に直接親しむ人が増えれば、文化の質が変わる可能性がある。そんな風に、古書をめぐる状況が変化しつつあるいま、岩瀬文庫や古書店を通して知った珍奇な資料たち、あるいは本業の古典文学の中から、思いつくままに話題を取り上げ、古書世界の入り口を少しだけ広げてみたい。
*本書まえがき:「古書大国、日本」より。

【著者】塩村 耕(しおむら・こう)
名古屋大学大学院人文学研究科教授(日本文学)。1957年兵庫県生まれ。東京大学文学部国文学専修課程卒。専門は井原西鶴を中心とした近世前期文学、書物文化史など。2000 年より岩瀬文庫の書誌データベース作りに没頭、2010 年11 月より「古典籍書誌データベース」のインターネット公開を開始。編著書に『三河に岩瀬文庫あり:図書館の原点を考える』など。
*プロフィールは本書刊行時のものです。

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目次

古書大国、日本

1章 義と理あらばこそ
名を好む心は学問の大義なり/正しい忖度/苦労も精神を荒らさない/中根東里の足跡を辿る/逆境、楽しむべし/倦むことなかれ/徳本上人の教え/網元の一代記/家族の手紙/芝翫贔屓

2章 奇談・笑話
恥をかく話/秀逸な怪談/さらに秀逸な怪談/寿命貝の伝説/旅僧の語り/ロクロ首の見世物/古い笑話の味/異世界に住む子ども観/『徒然草』と江戸笑話/屁文学の最高峰

3章 士道覚悟
幼な子を思いやる父の心/簡素極めた吸い物料理/新井白石の冗談/首斬り役の家/指手水/扇の作法、贔屓の情/知恵は肉体のどこに宿るのか/主殺しと縁坐/塵は山にならない

4章 西鶴の視線
見苦しきほどねんごろ/生類憐れみの令と文学/旅嫌い? 西鶴/人間と見栄/立腹考/心中立て/美少女による主殺し/枕並べた男に生き写し/色の道は永遠/芭蕉の奇短冊

5章 健養・保寿
江戸の金山寺味噌/本当の茶漬け/水雑炊/復元してみたい料理、したくない料理/名医の養生訓/塩水を鼻から飲めば……/著者が将軍上覧になった喜び/貝原益軒の農書/老人も二食で三合

6章 記録の愉楽
木曽山中の作業絵図/京都の地誌を網羅/安政地震の体験記/お相撲論/銭湯業界の広報本/江戸時代の職業別電話帳/カカシの原形/町内の雑用役の記録/金を隠しに墓に通うスリ

終章 岩瀬文庫のあとさき
江戸初期の黒船/人は走らなかった!/「女よけ」伝授の刷り物/蔵版書の意義/明治の遊戯解説書/少年事件への配慮/書物の敵/俗語の妙味/岩瀬弥助と古書店

あとがき(古書世界の旅) 書名索引・人名索引

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