ホーム > 談 no.101

談 no.101

談 no.101

文化、芸術、思想、科学などについて各界気鋭の論壇を招き、深く掘り下げるワンテーマ誌。

著者 公益財団法人 たばこ総合研究センター 編著
遠藤 利彦
信田 さよ子
林 もも子
シリーズ
出版年月日 2014/11/10
ISBN 9784880653518
判型・ページ数 B5・82ページ
定価 本体800円+税
在庫 在庫あり
 

目次

〈情動機能の生態学…アタッチメントと母子関係〉
・遠藤利彦(東京大学大学院教育学研究科教授)
アタッチメントとは、「個体がある危機的状況に接し、あるいはまた、そうした危機を予知し、怖れや不安の情動が強く喚起される時に、特定の他個体への近接を通して、習慣的な安全の感覚(felt security)を回復・維持しようとする傾性」で、母子臨床を基盤としながら、とりわけ子どもの虐待に対する治療や援助で効果を発揮しているという。
アタッチメント理論の創始者であるジョン・ボウルビィが多くのヒントを得ている生物学、比較行動学を参照しながら、母子関係を情動のフレームワークから見直し、一種の生態系(人間と環境の相互作用)として捉える視点を提示する。

〈家族愛幻想、その根っこにあるもの〉
・信田さよ子(原宿カウンセリングセンター所長)
日本の家族は、夫婦よりも親子の関係で支えられている。なかでも母子関係は確かな絆と考えられてきたが、昨今、母との関係を苦しく思う娘たちの声をよく耳にするようになってきた。とくに、母が重い、苦しい、母が怖いと赤裸々に語るのはアラフォー世代の娘であり、彼女たちの母とは、団塊の世代である。自己実現の幻想を味わった母たちは、娘を代理に夢を達成しようと試み、時には娘の幸せに嫉妬し引きずりおろす。時には自分の人生の保護者に仕立てていく。母親たちが最終的によりどころとするものが「母性」である。自己犠牲的装いゆえにその力に抵抗することは不可能だろう。
依存症や摂食障害、DVや虐待などに悩む本人や家族へのカウンセリングを続けている信田さよ子氏は、それらの多くが母と娘の関係に起因していると考えている。そして、いわゆる家族愛の象徴として語られる「母の愛」こそ幻想であり、しかも、そこにはある種の恐ろしさも孕まれているというのだ。
家族愛幻想を成り立たせている現代の母子関係にスポットをあて、その根っこにあるものを明らかにする。

〈思春期危機と母子の生態系〉
・林もも子(立教大学現代心理学部心理学科教授)
思春期は、身体、対人関係、自他の認識などさまざまな相(phase)の変わり目にあたる時期だ。身体的には、ホルモンのバランスが変化し、外界から性別が明確になり、また、第二次性徴により、大人の身体を実感し始める。対人関係においては、養育者との関係が依存から自立に変わる。仲間関係も、場や行動を共にすることでつながる関係(ギャング・エイジ関係)から、相互同一視により特別な絆を感じる関係(チャム関係) へと変化する。とまどい、憧れ、焦り、恥じ、怒り、悲しみなどのさまざまな情動の渦にのみこまれて翻弄され、情動を抑えるのに必死で動きがとれなくなったりもする。臨床心理士の林もも子氏は、そのような体験と苦しみを思春期危機と呼ぶ。
危機に直面して苦しんでいる時、意識するかしないかにかかわらず、アタッチメント・システムが発動しているという。思春期まで身体的、物理的アタッチメント行動は、思春期以降は、言語的・心理的なそれに代わる。思春期とは、アタッチメント対象を求める「子ども」から、自らがアタッチメント対象となる「大人」への移行期でもある。そうした複雑な過程が、アンビヴァレンスな感情を生む。であれば、この時期の母との関係が、その後の人生を大きく左右すると考えても間違いではないだろう。
思春期が大人へのアンビヴァレンスな感情を生む時期と捉えた場合、思春期危機とは、何を意味するのか。また、それは母子関係にどのような影響を与えるのだろうか。動物行動学、精神分析にも造詣の深い林氏に母子関係の新たなフレームワークを提起する

このページのトップへ

内容説明

特集「母子の生態系」幼児虐待の問題が深刻の度合いを深めているなかで、さまざまな取り組みがなされているが、改善の兆しはなかなか見えてこない。そうした現状において、親子関係、とくに生育過程での母子関係にフォーカスすることで問題に迫ろうとする動きが出てきた。

その代表株が発達臨床的視座からのアタッチメント理論だ。アタッチメント理論は、その理論的ベースに情動を置いているところに特徴がある。これまで情動は理性や認知と対立するものとみなされてきたが、最新の研究から、むしろそれらと表裏一体の関係をなす高度な「適応」能力として注目されるようになってきた。人と人の間をつなぎ調整する社会的機能として見直されてきたのだ。

幼児虐待やDVは、いまや人間存在それ自体を揺るがすような社会病理現象として捉えるべき時代になってきた。そして、そこには情動機能が深くかかわっているという。今号では、情動機能を中心に母子関係を情動を基盤とする一種の生態系(ecological psychologyの含意に準拠して)とみなすことから、病理からの快復、再生の道を探る。

このページのトップへ