文化と固有価値のまちづくり
文化経済学の第一人者がジョン・ラスキン、アマルティア・センらの研究成果をもとに地域再生構想を描く
著者 | 池上 惇 著 |
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ジャンル | 文化とまちづくり叢書 |
出版年月日 | 2012/10/01 |
ISBN | 9784880652979 |
判型・ページ数 | A5並製・240ページ |
定価 | 3,080円(本体2,800円+税) |
在庫 | 在庫あり |
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内容説明
いまこそ、金銭的価値・快楽優先のまちづくりから脱却するときだ。
2011年3月11日……この日を境にして、近代の「人間はエゴの塊(かたまり)であって何が悪い」という利己主義から、根本的に脱却するべきときがやってきた。
日本という国は、政治家や権力者に頼らず、民間の篤志家や宗教家、商人・経済人が、地域固有の農民文化、工人文化、福祉文化、水利文化、道をつくる文化、道徳文化、などを生かし、一人ひとりのもつ潜在的な力量を生かして、地域再生を果たしてきた
国である。
その歴史と蓄積をふまえ、物事の背景にある「固有性」と、自然と人間の「共生化」に注目して、自然の個性と人間の個性が互いに高めあえる社会を再構築すべきだ。
本書は、わが国文化経済学の第一人者がジョン・ラスキン、アマルティア・センらの研究成果を、二宮尊徳や行基らの事蹟にも投影させ、引き出しつつ、一人ひとりの足下からの地域再生構想を描いた著者の文化経済学研究の集大成。
【著者】池上 惇(いけがみ・じゅん)京都大学名誉教授。一般公益法人文化政策・まちづくり大学校(市民大学院)を主宰。全国を回りつつ、通信制の社会人学術人を育成し、学術出版を推奨し、経 済学博士などの論文博士執筆をも奨励している。研究教育における長年の功績で2012 年、瑞宝中綬章を受章。国際文化政策研究教育学会会長。遠野・京都文化資本研究会代表。
*プロフィールは本書刊行時のものです。
目次
物事の背景にある「固有性」と、自然と人間の共生関係=「文化」への注目
ー強欲・快楽優先行動を制御する良心経済を創る
農山漁村の固有性と文化性
第一部 大災害からの復幸ーその思想と行動
第一章 “知識結”による自己変革と“地域再生”
ー阪神淡路大震災における絆の再生・“貧困底”からの人間発達
1 はじめに 人間復興としての15年
2 人間復興都市・神戸に向けてー現代の知識結、その創造的価値
3 「コミュニティ再生の“営み”」=“知識結”の共通基盤
4 現代の知識結とNPO革命
CS神戸が提起する創造的産業
5 おわりに
第二章 東日本大震災と地域再生
ー「創造的復興」から「人間復興」へ
1 はじめに
2 東日本大震災の歴史的位置
1.大災害と政治・経済・社会変動
2.東日本大震災と日本の近代化
3 真の復興とは
1.「人間復興」と責任・論理
2.「人間復興」と原発事故(核災害)
3.真の復興と「人間の安全保障」、「持続可能な発展」
4.「生命の安全保障」と「生活の安全保障」
5.福島原発事故と広島・長崎被曝
4 阪神・淡路大震災の「開発主義の創造的復興」と「複合的復興災害」
1.「開発主義の創造的復興」
2.阪神・淡路大震災の「複合的復興災害」
5 東日本大震災の「新自由主義の創造的復興」と「複合的復興災害」
1.政府と日本経団連の「創造的復興」
2.宮城県の「創造的復興」
3.東日本大震災の「復興災害」
6 「創造的復興」思想の源流ー「産業主義」
7 東日本大震災の真の復興のために
8 おわりに
第三章 二宮尊徳における地域再生構想と実践の道
ー一円融合の理
1 はじめにー尊徳における地域経営の道ー「荒蕪(こうぶ)を譲で開く」
1.尊徳思想形成の歴史的背景ー不二講仲間との交流・相互支援
2.内発的な「超公共財」の誕生
ー内清浄から富貴へ・権力制御による民衆救済事業
3.身録の生命観
4.尊徳の人生と思想
2 尊徳における人格協働態の現代的意義ー「荒蕪を譲で開く」場を創る
1.現代の企業経営における人格協働態
2.家族と地域における文化資本の響きあい
3.尊徳の視点と現代経営
4.幸福を永遠にする推譲の法則
3 尊徳の農業道
1.道の展開ー“ひろがり”と“つながり”
2.尊徳の農業道ー前近代的秩序の転換
4 分度・推譲簿記学ー渋沢栄一と二宮尊徳
1.尊徳地域経営学の継承
2.倫理的な協働態による創造型経営
3.総有による地域経営
第四章 地域再生構想の実践における人間の疎外と発達
ー商人論における二宮尊徳とアダム・スミスを中心として
1 はじめにー経済学における人間行動の基礎
ー尊徳「推譲」と、アダム・スミスの「自己愛」
2 商人の道ー蒲生氏郷と日野商人、二宮尊徳
商人としての尊徳像
3 組織の閉鎖的壁を超える商人の道
1.産出と運転ー固有価値を引き出す商人道
2.産出と運転による固有価値の実現・続
3.商人論における尊徳とラスキン
4 アダム・スミスの商人論からみた尊徳の位置
1.自己愛の商人論ーA. スミス
2.推譲経済学ー日本経済学の原点・尊徳
第二部 地域再生と産業・福祉文化ー現代文化資本論
第五章 人間固有の「人・場」を活かす文化資本経営
1 文化経済の創出と、文化資本の経営学
1.文化経済とは
2.文化経済の創出ー自愛と慈愛のバランス
2 文化産業の時代へ
職人技における“慈愛”の意味
3 物欲から心の糧への転換
1.文化産業の意味を考える
2.文化経済の主体
3.商品・サービスの創造生に触れて感動する消費者
4 貨幣資本と文化資本
第六章 生活文化産業の生成と発展ーラスキンから現代まで
1 衰退産業と、資源の分散・再結合
2 ブランディング戦略と都市・地域固有のコミュニティ・ビジネスへの注目
1.地域ブランド化戦略の提起
2.地域固有の文化を発見し生かすための基金を創る
3 地域産業集積と新たな職人層・コーディネイターの台頭
4 ラスキンの産業実験
ー分散的な物的所有と、開かれた知的所有を結合するネットワーク
第七章 文化的価値の蓄積ー文化による“まちづくり”
1 はじめにーラスキンの生活文化産業論
ラスキン理論:「農場と庭園」=生活文化産業の基盤
2 種子の生産と研究開発
3 生活文化産業の財を分類するーラスキンによる財の分類と生活文化産業
4 固有の文化性を身につけた市民社会ー文化を担う人々が学習する場
5 展望ー学習の機会均等と融通型所得再分配
第八章 アダム・スミスのコモン・ストック論と商人ー永続的発展の経済学
1 はじめに
1.問題の提起
2.A. スミスにおける分業論と、その限界の認識
2 アダム・スミス商人論の意義
1.『道徳感情論』ー人びとの自然感覚から導かれた社会幸福論
2.『法学講義』ー市民社会の原理と商人の重要性
3 商業の負の側面について
1.アダム・スミスによる児童労働批判
2.『国富論』ー商業社会における幸福論の確立
4 展望ー現代的商人論への道
結論と展望ー福祉社会の構築と家族共同体・コミュニティ再生活動
ー地域における基礎的滞在能力の形成と地域文化の創造的再生
1 はじめにー「発達保障労働」としての福祉労働
1.家族関係の近代化、ついで、解体、それから再生への課題
2.発達保障労働の発展過程
3.障害者福祉から新たな研究領域と学際的交流へ
4.公共労働の拡充と多様化
2 「新しい地域文化」をつくる福祉
3 現代のまちづくりと、福祉社会の再生
4 金銭経済から文化経済へ構造転換
1.大量生産・大量消費社会の終焉と現代日本産業の空洞化
2.地域の固有性と住民の創造性
3.現代の知的所有とノウハウの継承・創造
4.創造産業における3層構造と現代産業への総合的接近
あとがき
参考文献
索引