内容説明
ハリウッドがもしサリンジャーの短編を芸術的なものに仕上げていたら事態は違っていただろう。ただ単に原作からインスピレーションを得ただけの、安易なシナリオによる小説の映画化は原作者へのある種の冒涜であることは否定できない。そこには原作の精神(スピリット)が残されていなければならない。(本書イントロダクションより)
翻案(アダプテーション)とは何か。
それはひとつの物語からもう一つの物語を作り出すこと。そうしてできあがったものは独立した作品である。
それでは、小説を映画に翻案するというのはどういうことなのか……。
小説を映画化する際に、監督は原作者の意図をどのように読み解き、いかにそぎ落とし、また付け加えるのか。そして映画化の後、原作の読み解きかたはどう変わって行くのか。
本書は原作とその翻案である映画の相関関係を考察することにより、作品世界の新たな魅力と見方が変わる一冊。
篠田正浩、山田太一の最新インタビュー掲載。
【編者】宮脇 俊文(みやわき・としふみ)
1953年神戸生まれ。上智大学大学院修士課程修了。成蹊大学教授(アメリカ文学)。2007年秋、ミネソタ大学客員教授。著書に『村上春樹を読む。―全小説と作品キーワード』(イーストプレス)、『アメリカの消失―ハイウェイよ、再び』(水曜社)、『グレート・ギャツビーの世界―ダークブルーの夢』(青土社)、共編著書に『レイ、ぼくらと話そう―レイモンド・カーヴァー論集』(南雲堂)、 『ニュー・ジャズ・スタディーズ―ジャズ研究の新たな領域へ』 ( アルテスパブリッシング) など。
*プロフィールは本書刊行時のものです。
目次
1.村上春樹『ノルウェイの森』
―言葉の感性を映像化する手法 宮脇俊文
(トラン・アン・ユン監督「ノルウェイの森」)
2.カズオ・イシグロ『日の名残り』
―諦めの文学をいかに表現したか 挾本佳代
(ジェームズ・アイヴォリー監督「日の名残り」)
3.映画の「動くイメージ」が小説家の意識を変えた
―フィッツジェラルドとヘミングウェイの場合 宮脇俊文
(ヘンリー・キング監督「日はまた昇る」)
4.フィッツジェラルド『華麗なるギャツビー』が描いたアメリカ社会
―消されたジャズ・よみがえるジャズ 宮脇俊文
(バス・ラーマン監督「グレート・ギャツビー」)
5.近世小説を近代的価値観で描いた溝口健二映画
―上田秋成『雨月物語』と井原西鶴『好色一代女』 田中優子
(溝口健二監督「雨月物語」「西鶴一代女」)
6.二つの『楢山節考』
―木下惠介の「様式の美」、」今村昌平の「リアリティの醜」 挾本佳代
(木下惠介監督「楢山節考」、今村昌平監督「楢山節考」)
7.翻弄される身体 ―『色・戒』と《ラスト、コーション》 晏妮(アンニ)
(アン・リー監督「ラスト、コーション」)
8.安部公房『燃えつきた地図』
―都市の脆うさを、勅使河原宏はこう表現した デヴォン・ケーヒル(翻訳:金原瑞人、井上里)
(勅使河原宏監督「燃えつきた地図」)
9.「生き方」を問いかけるドキュメンタリー映画もまた文学 池内 了
(大津幸四郎・代島治彦監督「三里塚に生きる」、佐藤真監督「阿賀に生きる」)
10.インタビュー:篠田正浩(映画監督) 映画は文学の隙間を映像化する
11.インタビュー:山田太一(脚本家) 原作を翻案する脚本家という難しい役割
あとがき